改正民法では個人根保証契約の限度額を定めなければ無効になる

賃貸借契約における民法改正の影響 ~賃貸借契約に大きく影響がでる5つのポイント~

事業用の不動産賃貸借契約においては、代表者個人を連帯保証人とすることを求める事が一般的である。その際、多くに契約書において「連帯保証人は、賃貸借契約から生じる一切の債務を保証する」という条項で締結されてきた。

賃貸借契約から生じる債務のうち、最も基本的な債務は、賃料債務、それ以外にも、原状回復費用や、善管注意義務違反に基づく損害賠償請求、極端な例としては、賃貸不動産内において利用者による自殺等が生じて事故物件になってしまった場合の損害賠償請求なども対象になる。このような幅広い債務を負担し得るという状況では、連帯保証人となることに抵抗を感じる。

債務者が家賃を滞納したり、借金を支払わなかったりした場合は、負債を負うことになる。借金の場合は、延滞金や利子によって、想像以上に大きな金額になっていることがあり、中には、保証人になってしまったために、自己破産を余儀なくされることもある。

「個人根保証」を改正

民法改正においては、保証に関する規定も改正対象となっている。

特に、個人が不特定に債務について保証する内容を含む「個人根保証」と呼ばれる保証については、重要な改正が行なわれる。極度額、すなわち保証の限度額を定めておかなければ、保証契約自体が無効となるという規定が新設される。賃貸借契約の連帯保証人は、典型的な「個人根保証」契約であるため、限度額を定めておかない限り、無効となってしまう。

連帯保証人が個人であれば、上記の規制を受けることになる。

保証限度額を明示

実務的には、連帯保証に関する条項や連帯保証人の署名欄付近に、改正民法の施行後は、「賃料の○カ月分を限度として」とか「金○円を限度額として」極度額を明示して契約することが考えられる。このような定めを置かない限り、保証契約が無効となり、連帯保証債務の履行を求めることが出来なくなってしまう。

他方で、賃貸人側からすれば、これまでどおり無制限の保証契約が締結できた方が望ましいわけだから、法人による保証、例えば、賃借人の関連会社による保証や、賃料保証会社による保証を求めるケースが増えていくと予想される。

その他、委託を受けた保証人の請求があった場合には、賃貸人は、債務の元本、利息、違約金、損害賠償などについて、不履行の有無や保証人が負担することになる額を回答しなければならない。

極度額の目安(ワンルーム)

目安となる金額 備考
賃貸賃料 賃料の1年分 解除までに3ケ月
提訴から強制執行までに6ヶ月⇒最低でも賃料9ヶ月は必要
原状回復費用 200万円 ごみ屋敷の場合は200万円程度になる可能性もある
入居者の自殺による損害賠償請求 賃料の2年分 自殺物件の場合、重要事項説明が必要となり、賃料を減額せざるを得なくなり、その減額分を損害賠償として請求できるが、その額は2年分が一定の基準となっている。
結論 賃料の3年分 200万円の合計 これを基準として、多少高めに設定しておく事が無難である。なお、あまり高額の場合、公序良俗違反として極度額の定めが
無効となる可能性もある。

民法改正で、賃貸借契約に大きく影響がでる5つのポイント

1.連帯保証人に対する規制の変更

改正民法では、「連帯保証人が個人である場合に、「極度額」を書面で合意しないと連帯保証契約は無効になる」ということになっている。

2.賃貸人が修繕しない場合に、賃借人に修繕権があることが明文化

賃借している物件の修繕について、今までの民法では賃貸人に修繕義務があることが明示されているだけだった。改正後の民法では、賃借人が以下の場合には、修繕をする権利があることも明文化される。

賃貸物の修繕等についての民法606条1項の改正
【要綱仮案】
民法第606条第1項の規律を次のように改めるものとする。
(1)賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要になったときは、この限りでない。
(2)賃貸物の修繕が必要である場合において、次のいずれかに該当するときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
ア 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
イ 急迫の事情があるとき。
賃貸物の修繕等について現行民法606条
(賃貸物の修繕等)
第606条
1 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
2 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。

現行民法には賃貸人が修繕義務を履行しない場合に、賃借人が自ら修繕をする権限があるかについての規律がない。もっとも現行民法608条1項は「賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる」と定めており、賃貸人が賃貸借の目的物を修繕することも肯定しているとも読めますし、これを認めるのが通説とされている。ただし、賃貸借の目的物の修繕は物理的な変更なども伴うことから賃貸人が行うことが原則。

そこで要綱仮案では「賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき」、または「急迫の事情があるとき」には賃借人は自ら修繕をすることができるとの規律を新設することが提案されている。

3.賃借物の一部滅失その他の使用収益の不能は賃料の減額請求ではなく当然減額となる

1.賃借物の一部滅失等による賃料の減額・解除について民法611条の改正

【要綱仮案】

民法第611条の規律を次のように改めるものとする。

(1) 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
(2) 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

現行の民法では、部屋が一部使えない場合に、賃料減額請求ができる、という定めのところ、改正民法では、当然減額される、という内容に変更になる。

つまり、これまで「請求できる」であったものが、「当然に減額される」ことになる。先の東日本大震災では、被害を受け一定期間営業できなかった店舗において、その間の賃料支払について、減額交渉の結果、賃貸人とトラブルになったケースも見受けられた。定義が曖昧になりがちな「その他事由」を出来る限り契約書に具体的に明記しておくことが必要。

東日本大震災で住民が何よりも困ったのは、停電でエレベーターが止まったこと 。エレベーターが壊れてしまい、1週間使えない。しかし、お部屋は20階にあるため、とても階段では上り下りができないとなると、その分の賃料を減額することが当然に認めることになる。また、猛暑でエアコンが壊れたけれども、エアコン修理業者の手配が混んでいて、修繕するまでに時間がかかった場合なども対象になると思われる。他に、お部屋が使えない(使用収益ができない)事例も、減額の対象になってくることもありえる。

4.保証人に対する情報提供義務

保証人を保護するという観点から、次のような義務が導入される見込みだ。

保証人や連帯保証人は債権者に対して、債務に関する情報を要求できるようになる。債務の元本や利息、賃料がきちんと収められているかどうかも尋ねることができる。

事業のために負担する債務について、主たる債務者の委託を受けて個人が保証する場合、契約締結に際し、主たる債務者が、保証人に対して自己の財務状況等を説明する義務。委託を受けた保証人から請求があった場合に、債権者が、主たる債務の履行状況等について情報を提供する義務。期限の利益を喪失した場合に、債権者がこれを知ったときから2ヶ月以内に保証人にその旨通知する義務が導入される見込み。

5.原状回復義務が明記され、通常損耗は含まれないようになる

消費者保護に軸足を置いた大きな見直しといえる。敷金トラブル解決の指針として「借主は通常の使用による傷みや汚れ、経年変化については、原状回復の義務は負わない」という新たな敷金ルールが明文化されることになる。

これまで、国土交通省の原状回復ガイドライン等で「賃借人は、通常損耗及び経年劣化については原状回復義務を負わない」という指針や判例のみで、法律として明記されていなかったものが、今回初めて明記された。これにより敷金返還トラブルが減ることが期待される一方、賃貸人側からすると、規定を超えて原状回復費用負担範囲を広げる場合は、契約書等に範囲や内容等、細かく記載する必要がある。

消費者視点で見た場合、大きくは7つのポイントとなる。

今回の改正内容は、大項目で41、具体的な改正内容が記載された小項目で200以上と、非常に多岐に亘る大改正になりますが、消費者視点で見た場合、大きくは下記の7つがポイントとなる。

  1.  約款に関する規定を定義
  2.  賃貸借契約の「敷金」を定義
  3.  企業融資で求められる個人保証を「原則禁止」
  4.  消滅時効を5年に統一
  5.  法定利率を5%から3%へ引き下げた上で変動制導入
  6.  認知症の高齢者が交わした契約は無効
  7.  購入商品に問題があった場合の責任

参考:「民法の一部を改正する法律案(法務省)

審査状況 平成29年5月17日現在

大谷昭二(日本不動産総合研究所所長)
(サブリース問題解決センター長)