サブリース契約対応の「不動産鑑定評価基準」の改正について(平成26年5月)~建物建設借入金に関する事情を考慮~

継続賃料の鑑定評価について、昨今の賃料改定に係わる最高裁判所の判例の動向や、評価の信頼性を高める観点から。鑑定評価において賃料に係わる価格形成要因等の規定の見直しが行なわれました。

従来の不動産鑑定評価基準では、賃貸人が建物建設に関し多額の借財を抱えるといった借入金に関する事情は一切考慮されませんでした。当該事情が勘案されていない不動産鑑定評価書は、司法の場において否認され続けるという状況にありました。

滝井補足意見を反映

これらの状況を打開すべく、滝井補足意見を反映する形で、平成26年5月に不動産鑑定評価基準の改正が行われました。

サブリース賃料評価を行うためには、判例解釈等を踏まえた賃料評価が必要不可欠です。

滝井裁判官補足意見とは

  1. 不動産サブリースの特殊性
  2. その中での賃料増額特約の存在から。経済事情による転貸事業収入の減少は、賃借人が負うべきものとするのが衡平であるとし、
  3. 賃料減額請求については、不況により金利負担が減少し賃貸人の返済の負担が減った分についてのみ認めるべきとした。

この種のサブリースといわれる契約では、賃料は当該建物の建築資金の返済に充当することが予定されており、その返済額が固定されている以上、契約後の経済事情の変動のみによってその原資となる賃料が容易に減額変更されることはないものとして定められているものと解すべきものである。

「不動産鑑定評価基準」の改正 (平成26年5月)

 継続賃料の評価に係る規定の見直し

継続賃料固有の価格形成要因を追記(例示)

 市場における賃料の推移及びその改定の程度、土地価格、公租公課の推移、契約内容及びそれに関する経緯、賃貸人・賃借人等の近隣地域の発展に対する寄与度

継続賃料を求める場合の一般的留意事項を明確化

 判例の蓄積を踏まえ、継続賃料を求める場合には、現行賃料を前提として、「直近合意時点から価格時点までの事情変更」、「契約の経緯や、契約内容等の事情」を踏まえて、鑑定評価を行うこと

固有の価格形成要因と一般的留意事項を踏まえたうえで、継続賃料を求める手法を適用することを追記

各手法の規定に「継続賃料固有の価格形成要因に留意」「契約内容及び契約締結の経緯等に関する分析」を行うこと等を追記

借地借家法に基づく賃料増減請求にかかる鑑定評価の場合は、「賃料増減請求に係る賃料改定の基準日」が価格時点となることを追記

判例が示す考慮要素およびその比重についての再検討【差戻審】

<滝井裁判官補足意見>

平成15年10月23日付最高裁判決「賃料保証特約」付きサブリース契約の差戻審で、平成16年11月8日付最高裁におけるサブリース裁判のうち、滝井裁判官が補足意見として呈示した借入金利負担軽減分の賃料減額が採用されている。これに公租公課負担軽減分も加味した金額をもって相当賃料額を決定した。すなわち、この種裁判においては事業収支の見直しが不可欠となり、賃貸人が不利にならない範囲内での減額なら認められるようになったのである。

滝井裁判官から注目すべき指摘がなされている。

「1…本件のようなサブリースといわれる契約は、賃貸借契約の中でも特殊なものであり、そこにおける賃料に関する合意は、一般の賃貸借契約におけるとは異なる意味を持っており、その契約において賃料増額特約が存在するにもかかわらす、減額請求が認められる場合に求められる衡平とは何か、その中味をより具体的に明らかにしておくことが重要であると考えるので、その点についての私見を述べておきたい。

2(1)本件のように、賃貸人が、不動産賃貸業を目的とする会社の提案を受け、それに基づいて、金融機関からの多額の融資金によって建物を建築した上で、これを当該提案をした会社に一括して賃貸するという契約を締結した場合、当該賃貸借契約における賃料は、目的物の価格や近傍同種物件の賃料だけでなく、その融資金の返済方法をも念頭において定められることが多いのである。

一般に賃貸借契約における賃料は、契約後目的物の価格の変動や近傍同種物件の賃料の動向よって不相当になることがあることから、借地借家法32条はそのことを理由に賃料の増減を請求しうることを規定しているのである。それに対し、この種のサブリースといわれる契約では、賃料は当該建物の建築資金の返済に充当することが予定されており、その返済額が固定されている以上、契約後の経済事情の変動のみによってその原資となる賃料が容易に減額変更されることはないものとして定められているものと解すべきものである。

このように解すると、建築物を一括して借り受けた賃借人は、これを転貸して、その転賃貸料と賃借料との差額を生じさせることによって利益を得ようとしているのであるから、契約後の経済事情の変動によって、自ら賃貸人となって得ることになる賃料が減額されても、賃借人として支払う賃料が減額されないのであれば、契約本来の目的を達しないことが起こり得る。しかしながら、そのようなことは、この種契約において目的物を一括して賃借することとした賃借人が一般的に引き受けたリスクと考えるべきものである。

本件契約でも、賃借人となった不動産賃貸業者は、その専門家としての知識と経験を駆使し、当該建築物の賃料収入を予測し、建築工事のために必要となる借入金額とその返済額とを検討した上で、返済額を差し引いた現金収支を明らかにした賃貸事業試算表を作るなとして、賃貸人に本件の事業の採算性を請け合ったというのである。

このように、賃貸人は、専門家としての賃借人による事業収支の予測に基づく提案を受けて、多額の借入金によって建物を建築し、これを賃借人に一括して賃貸することを内容とする業務委託契約と賃貸借契約を締結したものであった、その中で賃料自動増額特約が定められている以上、賃借人が当該建物を転貸することによって受け取る賃料収入がその後の経済事情の変動により減少しても、これにより生ずるリスクは賃借人が引き受けたものとして、これを直ちに賃貸人に転嫁させないというのが衡平にかなうものと考える。

この場合、賃借人の提案を受けて賃貸物件を取得したことに伴い発生するリスクは、すべて賃貸人が負担しているのであって、賃借人は、土地の所有や建物建築による経済的リスクを回避する一方で、支払賃料が経済事情の変動によっても減額されないことがある得るリスクを負担することによって、この種契約における当事者間の衡平は保たれているということができるのである。

大谷昭二(日本不動産総合研究所所長)
(サブリース問題解決センター長)