【Q015】鍵について(2)

ピッキングによって空き巣に入られたので、家主にピッキングにあいにくいかぎへの交換を求めたが、「管理上、別のカギに変えるわけには行かないし、借主が費用負担しても代えることはできない」と言われた。
家主の主張に従わざるを得ないのか?

  • 本Q&Aは、あえて入居者の立場からの質問形式となっています。
  • アットランダムな質問で、現実に即した知識の吸収を目指しています。
  • 入居者から高評価をもらい、行列の出来るアパートを目標としています。

前項で述べているように、家主には、ごくふつうに流通しているカギを付ける義務はありますが、ピッキングにあいにくい特殊なカギに交換する義務を負うものではありません。そして、借主が負担するからと言って、借主が家主に無断で別のカギに交換することも許されていないのです。

なぜなら、借主が家主に無断でカギを交換してもよいということになれば、物件管理がしにくくなりますし、火災などの非常事態にも、家主がカギを開けることができなくなり、家主の財産を自ら守ることにも支障が出てくるからです。

しかし、ピッキングの被害が一度ならず発生したにもかかわらず、家主が依然としてカギの交換を認めないような場合には、家主として、入居者の「使用収益させる義務」を果たしていないという判断が成立する可能性が高く、従って、カギの交換を拒否したことによって発生した被害については、家主が負担すべきだということになるでしょう。

修繕費および鍵の交換費用は賃貸人の負担とされ、敷金の金額返還を認めた事例

(大森簡易裁判所〔平成元年(ハ)第694号敷金返還請求事件〕平成2年3月14日判決、東京地方裁判所〔平成2年(レ)第43号〕平成2年11月16日判決一控訴棄却)

【判例紹介】

1.当事者の主張要旨

(1)賃借人(原告、被控訴人・Y)ⅩはYに敷金276,000円を返還せよ。

(2)賃貸人(被告、控訴人・Ⅹ)22・300円のみ返還義務を認める(残金は修繕費200,000円、鍵交換代犯20,000円などに253,700円を充当したと主張)。

2.判決要旨

ⅩはYに対し276,000円を支払え(Yの全部勝訴)。

3.争点

(1)「明らかにYの責による室内の破損または汚損箇所がある場合には、その修復費用はYの負担とする」旨の特約の効力.

(2)鍵の交換費用はⅩ、Yのいずれの負担か。

4.裁判所の判断

(1)本件における破損、汚損箇所の修繕義務(争点(1))について。

本件貸室には、Yの責に帰すべき破損や汚損があったと認めることはできない。ちなみに、畳にタンスを置いた跡がついたり、台所の壁に水はねの跡が残ったりすることは、賃借人の日常生活に伴う事柄であるから、その程度の汚損にとどまるものは、賃借人の責に帰すべきものとして賃借人がその修繕費用を負担すべきであるとは言えない。

(以上、控訴審判決より)

(2)鍵の交換費用を負担すべき者(争点(2))について。

経験則上、マンションの或る部屋の賃借人が他に転出した場合には、その部屋に後から入居する賃借人のための防犯上の必要から、その部屋の鍵は別なものと交換するのが普通であると考えられるので、仮に賃貸人が本件建物の鍵を交換したとしても、それは次の入居者のために必要だったと推定され、賃借人の鍵の返還が遅れたことによるものとは認めがたい。

【コメント】

1.原状回復費用一修繕費-について

(1)本件では、契約上「明らかに賃借人の責による室内の破損、または汚損のみ賃借人の負担にて修繕する」旨約されていますので、通常使用に伴う損耗の修繕費は賃貸人負担となります。

(2)そこで、賃借人の責による破損、汚損があったか否かが争点となったですが、賃貸人が「貸室の襖を破り、畳にタンスを置いた跡をつけ、台所の壁を汚すなど、明らかに賃借人の真による破禎、汚損があった」と主張したのに対して、賃借人はこれを争い、原判決(大森簡裁)は「女性である賃借人は、友人の女性と一緒に本件建物に入居していたが、二人とも物内を汚損しないように、細心の注意を払っていたものであり、賃借人が賃借した当初と比較し、人が居住する以上生ずる程度を超えた汚損を加えなかった」と認め、賃貸人が支払ったとする20万円の修繕費用は賃借人の負担すべきものではない旨認定しました。又、控訴審(東京地裁)は賃貸人の主張する汚乱破損は証拠上認められないとした上、裁判所の判例(4、(1))の理由により賃貸人の言い分を認めませんでした。

2.鍵の交換費用の負担について

(1)賃借人が退去したのち、新しい入居者を入居させる為には、鍵の交換を するのが普通です。これは、仮に賃借人から鍵(合鍵を含む)全部の返還を受けても、他に合鍵が作られているかも知れず、防犯上、新入居者 のため鍵を取り替えざるを得ないからであり、賃貸人にとって必要経費(投下資本)と考えるべき問題です。

(2)鍵を紛失した場合

賃借人が合鍵を2個渡されながら、紛失により1個しか返還できない場 合でも、上記(1)の結論は同じです。しかし、紛失した鍵については返還義務不履行となり、その複製費用は理論上は損害賠償すべきことになります(実際は少額で、また鍵交換により損害賠償は無用でしょう)。

(3)特約による負担者の変更は認められるか

契約上「退去時の鍵の交換は賃借人の負担とする」旨の特約があれば、上記にかかわらず、特約によって、従来と同等の鍵を交換取り付ける費用は賃借人の負担となる、との説もありますが、(
1)の考え方が妥当です。

【文諾志開平成5年1月3日付「せいかつ法律珊」(筆者弁護士鈴木喜久子)
判決全文コピー 中京法律事務所保管】