【サブリース経営】長期事業収支計画書(3)~ シミュレーションに原状回復費用を ~

前回の「【サブリース経営】長期事業収支計画書(2)~ シミュレーションに修繕費用を ~」では、外装や共有部の修繕費用を長期事業収支計画書に入れるべきとお話しましたが、今回は原状回復工事について見てみたいと思います。

入居者が入れ替わるたびに行わなければいけない原状回復工事

賃貸住宅では、大規模修繕とは別に、入居者が入れ替わるたびに原状回復工事を行ないます。

費用は規模により異なりますが、例えば15平米くらいのワンルームなら、クロスの張替えや、床のクッションフロア(CF)の張替え、クリーニング、諸費用込みで12万円~15万円程度、フローリングの張替えだと、プラス10万円程度かかります。(工事費用の詳細は、本ページ最後の「工事費用一覧」を参照下さい。)

原状回復費用、毀損・破損・汚損部分は入居者負担

本来、入居者が負担すべき原状回復費用(毀損・破損・汚損部分)についても、サブリース管理会社がオーナー負担として請求する場合もあるようです。

ただし、これは間違いです。オーナーと入居者の負担割合の原則をしっかり認識しておく必要があります。同時に、原状回復工事請求書の内訳も、必ず確認しておいて下さい。

なお、このようなトラブルを避けるため、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の一読をお勧めします。

原状回復工事は、外装や共有部の修繕費用の倍はかかる

原状回復工事は部屋ごとに行います。そのため、外装や共有部の修繕より頻度が高くなり、原状回復・通常損耗の範囲と言えども、オーナーのコスト負担は大きいものになります。

費用の目安としては、外装や共有部の修繕に比べ、2倍程度はかかると言われています。30年で外装、共有部の修繕に1080万円かかる物件なら、内装工事や設備交換(クーラーや給湯器・ガステーブル交換等)には2000万円程度かかると見ておくべきでしょう。(参考:「【サブリース経営】長期事業収支計画書(2)~ シミュレーションに修繕費用を ~」)

これらを合計すると、修繕・原状回復工事で約3000万円を要することになるため、収支シミュレーションの中でも非常に大きな金額を占めることになります。

しかも、このコストを賄う事ができなければ、物件の経営は滞ってしまいます。

雨漏りしたり、エレベーターが壊れたりした場合には一刻も早く修繕する必要がありますし、適切な原状回復工事が出来なければ新しい入居者は入ってくれません。

利回りに入れてはいけない共有部の水道代や電気代

逆に利回りに入れてはいけないものがあります。

敷金診断士(日本住宅性能検査協会)が見た中には、共有部の水道代や電気代を「収入」としている利回り計算がありました。共有部の水道代や電気代は、確かに入居者から徴集しますが、電気会社や自治体にそのまま入金するお金となります。したがって、収入ではなく、あくまで一時的な預かり金となり、もちろん利回りには入りません。

収支のバランスは必ずチェック

「長期事業収支計画書」が仕上がったら、収支のバランスをチェックします。

このとき、収入が損益分岐点を大きく下回り、経営に最低限必要な利益が出ないという場合には、価格設定をはじめとする、根本的な収入計画の見直しが必要となります。

利益が出ないと判断した場合、アパート経営を断念する勇気も必要です。自ら経営者としての自覚を持ち、リスクがあることを認識しながら経営判断をして下さい。

原状回復の考え方

(参考:敷金診断士(日本住宅性能検査協会)教材より抜粋)

原状回復は法律的に見て3種類の性質のものがあります。

それぞれの適用範囲や法的効果が異なっていますので違いを把握しておく必要があります。

(1)民法上の原状回復・・・「附属物の収去について」

借りた部屋にエアコンを取り付ける権利もあれば、退去するときに取り外す義務もあります。これを借主に収去義務といいます。
通常、法律上原状回復義務というときは、建物に賃借人が物を付属させたときに、その物を収去することをいい、明渡しの時に古くなった物を新品に交換するなどの建物の損耗・汚損の回復修繕のことではありません。民法616、598条

(2)民法上の原状回復・・・「善管注意義務違反について」

賃借人は賃貸人に対して、善良な管理者の注意をもって目的物の保管義務を負っています(民法400条)。この善管注意義務に違反して、賃借人の「責めに帰すべき事由」(故意過失)によって賃借物を毀損(キソン)すれば債務不履行になり(民法415条)毀損部分の損害を賠償することも、原状回復の一場合といえますので賃借人は、善管注意義務違反に基づいて原状回復義務を負っているといえるのです。

(3)いわゆる原状回復・・・「修繕義務特約について」

通常損耗は、特約で入居者負担すべきとしていても、あくまでオーナー負担です。つまり、

借りた部屋を善良な管理者の注意をもって使用し(400条)

その引き渡すべき時の現状でこれを引き渡し(483条)

引き渡された使用・収益に伴う賃貸目的物の自然の消耗や破損の負担は、
本来、賃貸人の負担に属するもの(修繕義務)である。(民法606条)

しかし、賃借人に修繕義務を課する特約も、民法の修繕義務の規定(民法606条)が任意規定であるため契約の自由の原則から認められます。

ただし、判例は、「賃借人が修繕義務を負担する」という特約は、単に賃貸人の修繕義務を免除する意味しか有せず、賃借人に積極的に修繕義務を果たした趣旨ではないとしています。(最高裁43.1.25)

このため、賃貸人の修繕義務を免除するだけでなく賃借人に積極的な
修繕義務を認められるためには、特別な事情が必要になってきます。(名古屋地裁 平成元年(レ)第31号)

つまり経年変化や通常損耗に対する修繕義務を負担させる特約は、可能だが賃借人に法律上、社会通念上の義務とは別個の新たな義務を課することになるための次の「特別な事情」が必要になります。

「特別な事情」について、国土交通省は判例を分析した結果、次の3つの要件を揚げています。

  1. 特約の必要性があり、かつ暴利的でないなどの客観的・合理的理 由が存在すること
  2. 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕費の義務を負うことについて認識していること。
  3. 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること。
    ただし、判例の動向は「通常の生活者」が「通常の使用」をしている時にこのような認識を持ち同意することは考えていません。

工事費用一覧

大谷昭二(日本不動産総合研究所所長)
(サブリース問題解決センター長)

参考: